昨年3月に発足したリニア・市民ネットはリニアについて検証し、問い直す活動を続けてきました。5.23(山梨・甲府)と7
.25(長野・松本)の講演・学習会(「リニア中央新幹線の課題」)、8.1〜2の現地学習会(長野・大鹿村)、JR東海に対
する質問書、10.24の対談・集会(東京・青山)、10.31の講演会(山梨・甲府、「リニアにおける電磁波の影響」))など
の取り組みを通してリニアの問題を考えてきました。
検証してきたことは、■財源・採算性の問題、■自然破壊、■技術・エネルギーの不安、■電磁波の影響、■地域の衰
退です。リニア・市民ネットのリーフレット「リニアは夢の乗りものか」はこれらの問い直しをシンプルにまとめたものですが
、同様の内容をここに掲載します。また、取り組みの様子については参加団体「みどり・山梨」の機関紙「みんなのみどり7
号」や活動報告(レポート)をお読みください。
■ 財源は大丈夫?
―たくさんの借金を抱えるJR東海―
JR東海が単独事業としてリニア中央新幹線計画をすすめています。その予算は東京―名古屋間5.1兆円で2025年
開業、東京―大阪間8.44兆円で2045年開業を目指しています。しかしその金額の根拠や内訳は明らかにされていま
せん。
こうした大規模事業は当初の数倍のお金がかかるのが普通です。たとえば本四架橋(神戸〜鳴門)は4.7倍に、東京
湾アクアラインは約3倍に膨らんでいます。
そのツケは今度も国民の税金にまわってくるのではないでしょうか。JRが国鉄から民間に移行した時、その借金の多
くは、国民が負担しました。そしてJR東海はまだ3兆円余りの借金を抱えています。そのJR東海が、在来型新幹線より
も建設費のかかるリニアを、さらに5.1兆円の借金をして造るというのです。
JR東海は第二のJALになるのではないでしょうか。
採算は採れるのか?
リニア中央新幹線は、東海道新幹線のバイパスとして計画されています。しかし東海道新幹線の利用客が横バイな
のに、割高な料金を払ってリニアを利用する人が、そんなにいるとは考えられません。在来線とのアクセスも無いことで
すし・・・。
採算をとろうと高い料金設定にすればさらに利用客が減り東京湾横断道路のようになりかねません。高くても早く走る
ことを乗客は求めているでしょうか。しかも日本の人口は減っていきます。とすれば、東海道新幹線もリニア中央新幹
線も、共倒れになるのではないでしょうか。
■ 自然環境を破壊する
リニア中央新幹線は、長野県と山梨県の県境である南アルプスをトンネルで貫く可能性が大です。
南アルプス一帯は世界自然遺産の指定を目指しているほど、自然環境や生態系が豊かなところです。そこに20kmも
のトンネルを掘れば、大きな自然破壊はまぬがれません。09年10月、山梨リニア実験線のトンネル工事によって笛吹
市御坂町で水源が枯渇し、住民は「先祖伝来の大切な水を返して!」と訴えています。
また南アルプスには中央構造線や糸魚川静岡構造線などの大断層があり、さらに長野県側でトンネル試掘をした大
鹿村一帯の地質は、岩石の崩壊を起こし易いので今でも地すべりが見られます。こんな危険な所に何度も路線が露出
することになる長大なトンネルを掘るのは無謀です。
これでも「リニアは環境に優しく、地域振興になる」と言えるのでしょうか。
■ 技術に不安はないか
―いくつもトラブルが予想される構造―
1991年10月3日に、宮崎実験線で車両が全焼する事故が起こりました。そのため車両を強化プラスチックか
ら金属に変えましたが、ガイドウエイの中に車両を納めるという構造は変わっていません。
ほとんどがトンネルの中を走行するリニアは、もし何らかの故障や事故が起こった場合、指令所では位置確認できな
い可能性すらあり、脱出口もなく乗客の救出もままならないということになります。
また地震の時など、ガイドウエイに破損、故障があった場合、簡単に修理ができず、復旧に長期間を要します。複数
の列車が止まった場合は、車両の牽引さえできないことになります。大深度地下利用が計画されていますが、地質は深
いほど岩質が硬くてもろく危険性が増す、との指摘もあります。
何と言っても運転手のいない無人の乗り物は、いろいろな点で不安です。
エネルギーはどうするの?
JR東海は、リニア中央新幹線に使う電力量を明らかにしていません。仮にドイツのトランスラピッドを例に試算してみ
ると、東海道新幹線とほぼ同じだけ走らせた場合、その電力使用量は544万kW/日となり、原発5基分が必要という
計算ができます。
リニアは在来の新幹線の3〜5倍の電力を必要とします。またぼう大なエネルギーを使う飛行機を比較対象にしてそ
の半分だから環境によい、などとPRすべきではありません。過剰なエネルギーを使う乗り物は21世紀型ではないので
す。
■ 電磁波は身体に影響する
リニアは磁気の力により走行するため、乗客のいる車内の空間にも強い磁場が生じる乗り物です。報告によれば、実
験線の場合床上で6000〜40000ミリガウス(国立環境研究所、平成17年)にもなります。高圧線など電力設備の電
磁場については、4ミリガウスの居住環境で小児白血病が2倍とする報告が日本でも出されており、海外でも繰り返し同
様の報告がされています。
リニアの磁場はその1万倍にもなる強さだということになります。経済産業省で検討されている磁場の規制値は、1000
ミリガウスあたりを予定していて、これも非常に甘い数値ですが、リニアはこの数値さえも大幅に上回ってしまうことになる
のです。乗車中や乗降時の電磁波被害を完全に防護することは不可能です。
しかしJR東海は「基準に適合している」として実際の電磁場強度を明らかにしないまま公開の議論を避け、計画を推し
進めています。
■ 地域が振興せず、衰退する
リニアで地域が活性化すると言われています。 しかしこれまでにこうした大規模なプロジェクトで、全国津々浦々の道路
や空港、本四架橋や東京湾アクアライン、また新幹線を全国に走らせた結果、地域や地方が活性化したでしょうか。いまそ
の赤字の解消も出来ず、破綻状態のものが大半です。
むしろいわゆるストロー効果により東京や大阪などの大都市に人口が集中し人をとられた地方はますます衰退の一途で
す。高速道路、高速鉄道は、地域振興ではなく、むしろ地域衰退を招いています。
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